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鳥羽の海草博士

今回の極モノは、三重県は鳥羽市の海草博士、岩尾さん。

鳥羽の港からさらに船で坂手島に向かい、鳥羽市水産研究所で活動する岩尾さんに研究者としての取組みと、地域生産者とのコミュニケーションの在り方をお聞きしました。


〜 種苗育成を通じて漁師の生き方を知る 〜

くらうま(以下K):海草の研究とは具体的にどのようなことをされているのでしょうか。

岩尾さん(以下I):私は研究所に来る前は、生物そのものの実態を研究していました。

通常の研究者は、海藻の育成がうまくいかなかったとしても、その事実を客観的に分析することが目的です。例えば,100%のうち3%しか種苗育成がうまくいかなかったとしても、その事実を客観視してなぜうまくいかなかったのかをまた研究すればよいわけです。

ところが、その種苗が漁師の生活の種だとすると3%しか成功しないという事は大失敗です。3%成功どころか3%の失敗ですら大事です。入所当時、種苗に失敗したことで上司は懸命に顕微鏡を覗き、その原因を探り漁師に失敗したことを謝っていました。そして、「岩ちゃんが育ってきた研究者の世界とここは違うんやで」と言われました。

K:なるほど。同じ研究者といってもシチュエーションが違えば目指すべき方向も違うと。

I:失敗したことに対して真剣に考えることで、漁師にもその想いが伝わり悩みを打ち明け一緒に解決しようという空気になります。これらの経験は漁師の暮らしの立場になることで「自分が研究所で取り組むべきことは何なのか」を考えるきっかけに気づくことができた瞬間でもありました。



〜 環境との「関係」に敏感に反応する海藻 〜

K:この時期、研究所は大忙しだということですが。

I:種苗育成は、梅雨時期に入る今頃が最も忙しいです。

この時期から、天気の変化が育成に影響を与えます。なかでも日照は最も影響の大きい要因の一つです。日照の変化に応じて海藻の色素が薄くなることがあります。例えば、明る過ぎると海藻は育ちません。光合成が容易になり頑張って育とうとしないからです。「そんなに頑張って光合成しなくてええわ」となるわけです。

そして、もう一つ育たない要因として日照の当たり過ぎがあります。日照の光のダメージで光合成が出来なくなるというわけです。この二つに共通して色素が薄くなるわけですが、どちらが原因かの区別がつかないのです。育成したいから光を当てたい一方で当てすぎると育成しない。曇り続きの後のカンカン照りなど急な日照変化の中で、海藻の繊細なコンディションを見極めることは難しいのです。だから、種苗育成では、日々時々刻々と変化する日照コントロールの為に天井を布で覆いながら日照の加減を調整しているのです。



K:海草ってすごく繊細なんですね…知らなかった!

〜 繊細な海藻育成に携わる意外な理由 〜

私ほど細かく育成状況を確認しなくても、種苗育成はそこそこうまくいきます。実際、通常のわかめ生産者は、自身の小屋で同じように日照コントロールをしています。生産者は自らの経験に基づく「自分の感性」である程度の育成が可能になっているのです。

しかし、これからの生産の持続可能性を考えるとこの手法では多くの課題があります。後継ぎがいなく、生産者が減少することで衰退する可能性がある現状では、もし新しい生産希望者が現れてもこの「感性」を急に継承することはできないからです。

K:「見て習う」職人の世界のようですね。たしかに、これでは一人前になるのに時間がかかりそう。

I:今後、海藻生産の在り方は多様化する可能性があります。今は既存の地域漁師コミュニティが存在して新規参入は難しいですが、他地域から通いで漁をするなどの新しい働き方によって生産を伝承する必要になる時代が来るかもしれません。

その時に、いかに新規参入者がつまづく事がないようにするか。上記のとおり、海藻生産は自然相手で難しく携わって最初は必ず壁に当たります。普通の社会で働いていた人が不確実で結果の見えない漁生活のストレスを減らすためには、今までの漁師の「感性」を「理屈」として伝承できるものに変えていくことが重要で、その「理屈」を明らかにして伝承してもらうシステムをつくる事が自分の仕事だと考えています。

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